恭匡さんは、呑気にラジオを聞いていた。
「あなたってひとは……」
絶句する母に、恭匡さんは、しいっ!と、人差し指を唇の前に立てた。

「IDEA(イデア)が出るんですよ。生放送は今年初らしいので、お静かに。」
……どうやら恭匡さんもIDEAが気に入ってるらしい。

ラジオからは、3人の笑い声と女性パーソナリティの甲高い声が聞こえていた。
長いお正月休みをどう過ごしたかを質問しているらしい。
他のお二人は海外に行ってらしたようだけど、一条さんはスタジオに籠もっていた、という話から、お正月に実家に帰った話、書き初めの話、そして親族が集まっての会食の話になった。

「えっ!」
突然、恭匡さんが声をあげて、顔色を変え、由未さんを見た。

「何?」
少し遠くにいて、聞き取れなかった碧生くんが2人に聞いたけれど、恭匡さんは由未さんと顔を見合わせて相談し始めた。

「今の、まずいよね……知織ちゃん、すぐに匿ったほうがよくない?」
「電話するわ!」

話が見えない。

「どうしたんですか?親戚の会食?まさか今の話を披露宴と勘ぐる人もいないと思いますけど……」

そう聞くと、恭匡さんはうなずいた。
「そうだね、ただのお正月の親戚の集まりだね。でも一条さん、席次の話で『真ん中に両親がいて、両方の列にざーっと親戚が並んで、一番下座に兄貴夫婦と、甥っ子姪っ子と、俺達がいて、』って言っちゃったんだよ。『俺達』って。」

あ!
そっか。
一条さんは独身ということになっているから、「俺」じゃないと辻褄が合わない。

「俺達」は、少なくとも配偶者がいることを示してしまったんだ。

碧生くんがスマホを操作して、舌打ちした。
「実況掲示板でも騒がれてる。時間の問題だな、これ。どうする?知織を京都の実家に帰す?」
「そうだね。一条さんが淋しがるだろうけど、身から出た錆だしね。うちに匿ってもいいけど、ひとまず京都のほうがいいだろうね。まったく……やらかしてくれるよね、一条さん。」
そう言って、恭匡さんは声をあげて笑った。

「知織ちゃん、タクシーでこっち向かってるって。光人(りひと)くん、シッターさんに預けて来てんて。私、迎えに行ってくるわ!」
由未さんは、そう言って飛び出した。

「おばさま、今日、お帰りですよね?知織ちゃんと京都まで同じ新幹線で帰ってやってもらえますか?赤ちゃんも一緒に。」
恭匡さんの頼みを母が断れるはずがない。

「碧生くんは、引き続き情報収集係ね。あ、明日から京都だよね?ちょうどいいから、知織ちゃんの様子も知らせてね。」
恭匡さんは、妙に楽しそうに指示を出していた。

「私も、お手伝いできることありますか?」
私がそう聞くと、恭匡さんは苦笑した。

「百合子はそそっかしくて鈍くさいからなあ。ウロウロしてると、一条さんの奥さんと間違えられちゃうかも。おとなしくしててくれたらいいよ。」

……やっぱり役立たずなのね、私。