スマホには、家からと碧生(あおい)くんからの着信履歴が残っていた。
現在時刻は2時。

私はため息をついて、スマホを鞄にしまった。
「連絡したったら?心配しとるんちゃう?」

泉さんにそう言われたけれど、私は首を横に振った。
「もう寝てるでしょうから。」

それ以上は何も言わず、泉さんはベッドに横になった。
私も黙ってすぐ隣に伏した。

「電気消すで。」
泉さんは私の返事も聞かずに、室内灯を消した。

……胸がドキドキする。
すぐ隣に、同じベッドに泉さんがいる。
本当に、しないんだろうか。

「百合子を抱いて寝たら、何(なん)もかんも忘れて熟睡できると思てたけど……結局、昼寝しかできんかってんな。思いがけず、朝まで寝られることになって、ラッキーって思とくわ。」

しばらくしてから泉さんが小声でそう言った。
「今も、眠れないんですか?」
不安になってそう聞いた。

「いや、強い薬もろてるから、寝てるで。副作用がきついけどな。」
……それで痛み止めを持ってるの?

泉さん……。

「俺、あと10年もたへんと思う。ずっと自転車乗りたいけど、たぶん心身ともに、無理やわ。」
弱音を吐く泉さんの腕にそっと頬を寄せた。
「俺がいきがってられるんは、選手の間だけや。こんなギャンブルみたいな人生に、百合子を付き合わせられん。……ほんまもんのお姫さまなんやろ?百合子。」

泉さんの言葉の真意がわからず、私はじっと黙っていた。
「自分で思ってた以上に、百合子のことが大事みたいやわ、俺。せやし、あいつと……薫のツレと、仲良ぉせえよ。」

「泉さんに言われたくない。」

嘘。
泉さんの言いたいことはよくわかってる。
大事に想ってもらっててうれしいのに……私はついそう言ってしまった。

それも本音なのだろう。


泉さんは低く笑った。
「せやろ?俺がいっつもお前に言われたくない、って怒ってた気持ち、わかるやろ?な?」
声のトーンが悪戯っ子のようになった。

「百合子。あいつに内緒にできるんやったら、抱いたるわ。」
驚いて起き上がると、泉さんは私の両腕を引っ張って、自分の胸に抱き寄せた。

「どうする?」
泉さんは重ねてそう聞いた。

……今までなら、有無を言わさず抱いていたのに……
嵐のように翻弄されることに慣れていた私は、逆に困惑し混乱した。

「泉さんは……しないでもいいの?」
そんなわけない。
既に大きく硬くなっているモノが私の太股に当たっている。

「ええで。こうして抱いてるだけでも寝られそうや。」
そう言って泉さんはぎゅっーっと私を抱きしめた。

ずるい。
私は目を閉じた。
「私は無理。眠れるわけありません。……抱いてください。これが最後です。」

碧生くんと泉さんの奥様への大きな罪悪感を抱えたまま、私達は愛し合った。
激しさよりも優しさといたわりが伝わってきて、涙が止まらなくなった。

気持ちよくて、幸せで、切なくて……。

私達は繋がったまま眠りについた。

まるで幸せな恋人達のように。