由未さんは、肺高血圧症と診断された。

治療法の確立していない進行性の難病で、悪化すると肺移植が必要となるらしい。
妊娠出産は、母子共に危険が高いので原則禁止……。


「もちろん由未の命を最優先に考えたいと思っています。子供は望みません。他の女性に産ませる気もありません。天花寺は、君たちの子供に継いでもらいたい。おばさまにもご負担をおかけしますが、よろしくお願いいたします。」

数日後、恭匡さんと由未さんがわざわざご挨拶とご報告にいらっしゃった。
由未さんは、特に変わったところはないように見えた。

「……わかりました。私達にできることは何でもご協力いたします。何なりと仰ってください。」
母はそう言ってから、由未さんのほうを向いて座り直した。

「由未さん。お身体、ご自愛くださいね。恭匡さんの為にも。無理はなさらないで、私達に甘えてください。」
由未さんの瞳に涙が浮かんだ。

「ありがとうごさいます。よろしくお願いいたします。百合子さんにも、心配させてしまって、ごめんなさい。」
私は慌てて由未さんの手を握った。

「どうか、謝らないで。つらいのは由未さんなのに。」
涙がこぼれた。

「今のところ、ごく軽度だから大丈夫。むしろ階段や体育の時に、私だけが息切れしてることが多かったから、原因がわかって納得できた気分やねん。」
そう言ってから、由未さんは苦笑した。
「恭(きょう)……恭匡さんに子供を諦めていただくのはつらいけどね。でも代理母をお願いするのも抵抗あるし。百合子さんの自由を奪うようで申し訳ないねんけど。ごめんね。」

私はぶるぶると首を横に振った。
……本当は、私が代理母を志願してもいいぐらいの気持ちになっていた。
もちろん今じゃなく、私自身が出産を経験してからだろうけど。

「碧生くん……。私、若くて元気なうちに、子供が欲しい。」
お二人を見送ったあと、碧生くんにしがみついて、そう言ってしまうぐらい、ショックだった。

「うん。わかるよ。でも、俺は逆に心配になった。妊娠出産で飛躍的に進行してしまう難病がけっこうあるんだって知って。」
そう言って、碧生くんはギューッと私を抱きしめた。

人生は、わからない。
幸せが約束されてるかのように見える由未さんなのに、こんな落とし穴があるなんて。

「病気になったからと言って、不幸なわけじゃないよ。子供がいなくても幸せな夫婦はいっぱいいる。健康じゃなくなったことで、小さな幸せを実感できるようになって、健康な時より楽しく生きる人もいる。本人と周囲の理解次第だよ。」

碧生くんの言葉に、私も少し救われた気がした。