碧生くんからお土産とクリスマスプレゼントをもらってご満悦な母だったが、夕食後、わざわざ義父のいない時を見計らって真面目な話を切り出した。

「由未さん、お身体の具合がお悪いのですか?」
突然の話題に驚いて母と碧生くんを見比べた。

碧生くんは、ちょっとためらいながら答えた。
「わかりません。まだ検査結果は出ていません。何でもないといいのですが……」

どういうこと?
「何があったの?」
私にそう聞かれて、碧生くんは観念したらしい。

「やすまっさんに勧められて謡(うたい)を始めたんだけど、大きな声を出したら、急に咳き込みだして……血を吐いたんだ。」

ええっ!?
喀血、ってこと?

「すぐに病院に行ってレントゲンを撮ったら両肺が真っ白だった。止血剤と洗浄で画像は落ち着いたけど、原因はまだ。……癌や結核ではなさそうです。」

母と私は顔を見合わせた。
「……それで、私達を天花寺(てんげいじ)家に?」
由未さん、もしかして……命に関わる病気なの?

「それはあるだろうね。難病で有効な治療法がないならストレスは少しでも減らすべきだろうし。おばさまや百合子に助けてもらえたら心強いと思う。」

思わず碧生くんの腕をぎゅっと掴んでしまった。
手が震えて、言葉が出ない。

「大丈夫だよ。すぐに死ぬような病気じゃないはずだから。」
碧生くんはそう言って私の手に自分の手を重ねてくれた。



クリスマスの朝、碧生くんは私にもプレゼントをくれた。
綺麗な真珠のネックレスで、数ヶ所にゴールドが輝いていた。
ペンダントトップは薔薇の形に真珠が彫られているようだ。
決して小さくはない粒の花珠の輝きに息を飲んだ。
……かわいいけど、クォリティも値段も高そう。

「一応、お揃いで指輪もあるけど。これはプロポーズとは別ね。」
何のこだわりだか、碧生くんはわざわざそう言って、箱ごとくれた。

「ありがとう。私からは、これ。双眼鏡。」
碧生くんに連れられて寺社仏閣や博物館に行くと、いかにも熱心な愛好家が単眼鏡や双眼鏡を使っていいるのを見ていたので、持ち運びが邪魔にならなさそうな小さな双眼鏡を選んでみた。
小さいのに8倍から24倍と高倍率で明るいらしい。

「うわぁ……ありがとう!ニコンだ!」
そう言って碧生くんは私を抱きしめて、何度もキスしてくれた。

私達がやっと訪れた普通の恋人らしい穏やかな幸せを満喫していたちょうどその頃……由未さんは医師から病名を告げられていた。

何も、クリスマスの朝でなくてもいいのに。

私の大切な従兄の愛する奥さま。
私の愛した初恋の人の妹さん。
そして、私の……半分血のつながった同い年の姉妹。

ずっと彼女が、うらやましかった。