翌日の競輪祭決勝戦で、泉さんは2着になった。
優勝は出来なかったものの、賞金ランキングで8位に浮上した……2ヶ月の斡旋停止期間があったのに。

ただ事故点が膨らんだペナルティで、結局年末のグランプリには出場できないそうだ。

『例え優勝しても、グランプリに出場でなかったそうだよ。厳しいね。』
PC画面の向こう側で碧生(あおい)くんはそう言っていたけれど、私は首を振った。
「ルールはルールでしょ。仕方ないわ。」
『それでも競走スタイルを改めないんだもんね。水島、泣いてくやしがってたよ。』

……水島くん……本当に泉さんのことを慕ってるのね。
泉さんは幸せね。
やりたい放題やってても、ちゃんと奥様にも弟子にも愛されて、たくさんの熱心なファンもいて。

私なんかいなくても、大丈夫よね、もう。

『それはそうと、2月の全日本選抜?やっと水島がG1レースに出られることになったらしいよ。ちょうど試験も終わるから応援に行こうと思う。一緒に来ない?』

水島くん、特別競輪(G1)に出られるんだ!
「すごいね!本当に1年で。水島くん、がんばってるのねぇ。」
そうね……私も、応援に行きたいわ。

「行くわ。どこ?遠いのかしら?」
『静岡だって。伊豆か箱根に泊まらない?』
「箱根がいいわ。大好きよ。」
私がそう言うと、碧生くんは耳に手を当てた。

『ん?何が大好きって?』
キラキラした目でうれしそうにそう聞かれて、苦笑する。

「碧生くん。」
ご期待にお応えしてそう言うと、碧生くんは満足そうに笑った。

私もまた、碧生くんの笑顔に幸せをもらった。



殊の外、穏やかに日々は過ぎてゆき、クリスマス前に碧生くんは京都にやって来た。
「今回は、大荷物ね。」
「あ~、帰省シーズンだからね。やすまっさんとこと、知織んとこの荷物も積んでんの。あ、知織からコンサートのチケットもらったけど、一緒に行かない?みんなで。」

みんなで、の意味がわからないまま私はうなずいた。

「それから、こっちはおじさまとおばさまへのクリスマスプレゼント。」
両親に?
……と驚いたけど、そういえば日本と違って、アメリカではクリスマスは家族で過ごすものよね。

「ありがとう。2人とも喜ぶわ。」
そう言ってから、ふと気づいた。

「ねえ?私も碧生くんのご両親とお兄さまに何かお送りしたほうがいいんじゃない?」
碧生くんはうーんと少し考えて、

「これからなら、ニューイヤーカードかな。あ!百合子とのツーショット写真で送ろうか。振袖、着て着て!」

と、私におねだりした。