安堵のため息をついた私に、碧生くんがちょっと意地悪い顔で言った。
「奥さん、競輪祭で優勝したら離婚してもいい、って言ったらしいよ。」

「……そう。」
奥様、絶対優勝できないと思ってらっしゃるんだろうな。
本来なら誰よりも泉さんの優勝を願われるお立場なのに……そんなことを言わなきゃいけないぐらい切羽詰まってらっしゃるかと思うと胸が痛んだ。

「優勝して、奥様と仲直りされることを切に願いますわ。」
私がそう言うと、碧生くんは敷いたばかりのお布団に、私を優しく押し倒した。

「さっきのやすまっさんの話だけどさ。俺のそばにいるためだけに大学を2年休学するわけにはいかないよね?」
私は返事しかねて、ただ碧生くんを見つめていた。

碧生くんはダメ元で誘ってるのだろうか?それとも?
「そんな顔しなくてもいいよ。無理強いしてるわけじゃないから。……でも」
そこまで言って碧生くんは、私の首に唇を這わした。
「百合子がこれからも苦しむのがわかってて、ほっとくわけにもいかない。」

これからも?

「泉さんとは、もう逢わない。……ほんとよ。」

でも碧生くんは唇をはなして、顔を歪めるように唇の端を上げた。
「無理だよ。百合子は、拒絶できない。」
断言されて、私は言葉を失った。

「いいんだよ。わかってるから。百合子は、情が深いんだよ。」
碧生くんはそんなふうに言ったけれど、私にはそうは思えなかった。

自分がとても弱い、だらしない人間のように感じた。
……確かに、完全に拒絶することはできないかもしれない。

「嫌なのに……。碧生くんだけでいたいのに……。」
流れ出た涙を碧生くんが拭いてくれた。

「うん。俺も。もう、独占しちゃってもいい?」
独占、してくれるの?
今だけじゃなくて、これからもずっと?

「……して。」

碧生くんはニッと笑って、本格的に私を翻弄しにかかった。

「……もしかして……付けてない?出した?」
珍しく、碧生くんは私の中で……弾けた。

今までは、私の身体を気遣って必ず避妊してくれてたのに。
「そのままの姿勢でいてね。妊娠しやすいらしいから。」
しれっとそう言った碧生くん。

「赤ちゃん、ほしいの?」
驚いてそう聞くと、碧生くんは私とつながったまま口付けた。

「欲しい。少なくとも、休学する理由になるじゃん?」

独占、ってそういう意味なんだ。

……まあ……いいか。