「戻りました。今はつるつるの白い肌ですよ。」
右手で自分の頬を撫でて確認しながらそう言った。

『そうか、よかったな。あのままやったら嫁のもらい手なかったで。ほな迎えに行くわ。』

え!?
「いつ?今じゃないですよね?何で?」

『明日の朝や。百合子がいたら寝られる気がする。ほんまは今から行きたいけど、俺が寝てる間に帰られたらかなわんしな。睡眠障害を悪化させたんはお前やで。責任とれよ。』
それだけ言って、泉さんは電話を切った。

……嘘でしょ???




翌朝、本当に泉さんが来た。
以前待ち合わせた場所にすみれ色のパッソが駐まっていた。

「乗って。」
窓を開けてそう言った泉さんのお顔を見て、私はギョッとした。

別人のように痩せてらした。
もともと細いシャープな顔つきなのに、ますます頬骨がつき出て、顎がとがってる。
目の下には黒いくまがくっきり。

「泉さん……」
挨拶だけして帰ろうと思ってたのに、病的にやつれた顔を見たら帰れなくなってしまった。

「ほんまや。綺麗になったわ。よかったな。……アレはひどかった。思い出したら笑えるぐらいひどかった!」
私とは真逆に、上機嫌で笑いながら泉さんは車を出した。

「泉さんは、今、ひどい顔してらっしゃるわ。どうしちゃったんですか?お食事、ちゃんと摂ってらっしゃる?」
慌ててシートベルトを装着して、泉さんにそう聞いた。

「いや。食欲ないねん。でも練習はしてるで。サプリも飲んでる。」
……だからここまで痩せるのね。

「あそこは?ほら、緑いっぱいの素敵なカフェ。お料理も美味しかったし店員さんも素敵だったし。」
でも泉さんは肩をすくめた。
「あかんねん。オーナーとたまに寝とったから顔効いてんけど、他の店員をちょっとかまったら出入禁止になったわ。」

……え~と……自業自得ですよね、それ。
ちょっとかまう、って、つまり手を出したって意味よね?
「手当たり次第?ケダモノ……」

ついそう言うと、泉さんは鼻で笑った。
「誰のせいやと思とんねん。百合子が悪い。連絡まったく寄越さんし、勝手に帰るし、俺が他の女の話しても妬かへんし。逢うてヤッてる時とのギャップあり過ぎやろ。」

……。

では、なんですか?
泉さんは、私に焼き餅を焼いてほしくて、平気で他の女性の話をするんですか。

そんなの……今さら過ぎる。

「最初から、私1人のものにはならないとわかってたのに嫉妬なんて、見苦しくてできませんよ」

……まるで母のような言葉だな、と思いながらそう言うと、泉さんは急にグイッとアクセルを踏んだ。