新幹線が東京駅のホームに滑り込むように到着した。

京都は晴れてたのに、こっちは雪なのね。
ゴチャゴチャした街並みが白く覆い隠されて、とても綺麗。

今日の振袖は雪のお庭に映えそうね……と、私は車窓にぼんやり映った自分の襟元に乱れがないかを確認した。

不意に、ガラスの向こうに見知った人が映った。
心の中で舌打ちをしたくなったけれど、何とか表情を崩さないように努める。

彼……佐藤 碧生(あおい)くんは、満面の笑みでガラスに張り付いた。

ああ、やっぱり、見てられない。
私は、思わずブラインドカーテンを下ろしてしまった。

……さすがに、怒ったかしら。
すぐ後悔して、もう一度そっとカーテンを開けた。

そこに碧生くんの姿はなかった。

ドアが開き、まばらな乗客が新幹線を降りていく。
私も立ち上がり、通路を進んで、新幹線を降りた。

「百合子(ゆりこ)!今日もめっちゃ綺麗!」
さっきの仕打ちをものともせず、碧生くんはそう言って私を迎えた。

……褒められて悪い気はしない……はずなのだが……私はため息をついてしまった。
「ごきげんよう。……これから、私のことをそんな風に呼び捨てになさるのですか?」

碧生くんは、ハッとしたように自分の口を押さえた。
「や!ごめん、つい……俺、帰国子女だから。親愛の情。許して?」
そう言って碧生くんは手を出した。
「荷物持つよ。貸して。」

「けっこうですわ。」
草履とお揃いの和装バッグ1つしか持ってきていない。

「でも、それ。」
碧生くんは、私の左腕にかけている振袖用のコートを指さした。

「これから着ます。」
そう言ってコートを広げようとすると、碧生くんはさっと私からバッグもコートも奪ってしまった。

「Please(どうぞ)。」
さっきまで悪戯(いたずら)っ子のようだった碧生くんは、急に紳士然として私にコートを着せてくれた。

「ありがとう。」
結局、バッグも碧生くんが持ってくらしい。
これ以上反論しても無駄のようだ。
私はあきらめて、碧生くんにエスコートされた。

碧生くんは、現代風(いまふう)のチャラいイケメンな風貌で……正直なところ、苦手なタイプ。
あまり関わり合いになりたくないのだが、天花寺(てんげいじ)本家の恭匡(やすまさ)さんから紹介されたので無碍(むげ)に断れない。

恭匡さんがおっしゃるには、碧生くんは日本文化に造詣の深い好青年とのことだが、私に対してあまりにも明け透けに好意をアピールしてくるので、私はどう対応すればいいのかわからない。