その楽譜は


ていうか、誰でも知ってる訳じゃないとおもうんだけど。
どんだけ自分に自信あんの、こいつ。
「…速水 佑」
ボソッと言ったのに対し、目の前の転校生、『琴西』は黄色い声で言った。
「佑くんっていうんだ!似合ってるっ」
はいそうですか、アリガトウゴザイマス。
お礼はいくらでも言うから、早く家に帰らせてくれ。
「…今日レッスンがあるんで」
「なんのレッスン?そんなに大事?」
琴西は俺の袖を掴みながら言った。
やめてほしい、正直。
こんなにうざいと思ったのは生まれて初めてかもしれない。
「琴西には関係ない。帰る」
俺はぶっきらぼうに言い放って、早乙女さんの席を見た。
そこにはすでに姿はなく、唯一の友達であろう篠原さんの姿もなかった。
そういえば、去年もそうだったような気がする。急に学校に来なくなった時期もあったっけ。だけど、学年主席の彼女にしてはなんの痛みもなかったのだろう。その間、篠原さんは毎日涙目で生活していたっけ。
確か、学校に復帰したときは、早乙女さんは笑顔だったが、篠原さんは号泣しながら抱きついていたような…そんな記憶を掘り返しながら、ガツガツと帰るのだった…。
後ろで、俺のことを悔しそうに拳を握り締める琴西のことを知らずに。