その楽譜は


一旦グランドピアノの椅子から立ち上がって、速水さんの前に立った。
黒髪のサラサラそうな髪。
前髪は伸びきっているけど、それが女子受けなんだろうね。
「…初めまして、速水 佑です。宜しくお願いします」
「初めまして、わたしの名前は『豊田 香奈』です。宜しくお願いしますね、速水さん」
よかった、緊張しなかったよ。
褒めてよ遼さん!!
声震えてないと思うよ、…多分…。
わたしはグランドピアノの椅子に座るように促して、隣にあった椅子に座る。
「えと…ごめんなさい、わたし今日のシフト表家に忘れてきたみたいで…その、速水さんの経歴とかわからないので、聞きたいんですが、いいですか?」
「あ、はい。前に習っていた先生にこの教室を進められて来ました。経歴はそこそこですね」
「地方のコンクール優勝経験は?」
「1度だけ。去年の夏です」
「…わかりました、すみませんね」
わたしは、速水さんの言ったことをメモして、とりあえず息をついた。
「前の先生、どんなスタイルで教えてました?…例えば、楽譜は先生が用意する…とか」
「基本的にそうです。コンクールは、俺が決めてました」
「そうなんですか、珍しいですね」
「そうなんですか?」
「はい。最近では、ほとんど生徒さんに決めてもらうみたいなんですけど。その先生はわかってらっしゃった」