帰るのやめた。



席についたら山田が安心したように笑うから、心外。


藍ちゃんの隣に移動しよ。



「俺を見捨てたら芙祐も素行不良で留年するぞ!」


「うるさい」


「山田の子守は大変だね」


藍の穏やかな声が癒しだよ。


藍の隣は静か。
一番窓際の席に座った。



そしたらトンって肩を叩かれた。



「芙祐ちゃん」


振り向けば、慶太くん。
茶色い髪は今日も完璧にセットされてる。
オーラ?なんかすごい存在感。



注目浴びすぎ、慶太くん。
クラスの女子のほとんどが
彼の甘いフェイスに釘付け。



そんなこと御構い無し?
慶太くんはニコニコと
あたしの席の前に立つ。


「勉強中だった?」



「してないよ。ていうか、この前はヤヨがごめんね。カフェの約束も果たせてないし」


「もう気にしないでよ」


「ありがとう。今日はどうしたの?」


「芙祐ちゃんと一緒にテスト勉強しようかなって」



「あたし今日はしないよ。今やっても忘れちゃいそう」


「ふーん、そっか。俺もそっち派」



矛盾してるね、慶太くん。



「芙祐ちゃんさ、ひとのことちゃらいちゃらい言ってたわりに、似たようなもんじゃん」


「なにが?」


「男子と至近距離でなにやってんの?」


「あれは山田のボタンつけてただけだよ」


「はは、嘘。本当は見てた」



笑うとえくぼ。慶太くん。
ふんわり、今日もアロンの香りが近づいた。



「ちょっと羨ましいくらいだったけど」



あたしに耳打ち、低い声。
なにそのワザ?ズルくない?


ちゃらい。
ちゃらすぎ。



「芙祐ちゃん今日もいい匂いするね」


「それは、ありがとー」



って言いながら、なんとなく窓の外を眺めてたら、下校途中のヤヨの後ろ姿発見。



まっすぐ歩いてると思ったら、急に駆け足で、斜め右側へ。



目線の先にはドミノ倒しになった自転車とそれを直してる女の子。



……手伝うんだ。




そう思ったとおり、ヤヨは一生懸命自転車直してる。
だからモテるんだよ。



女の子はぺこり、頭下げてる。



ヤヨは優しい。
みてるとほっこりするくらい。



「あ。”弥生”くんだ」


「うん」


「芙祐ちゃんって弥生くんのこと好きなの?」


「スキ?うーん、まぁ。スキだけどね。あ、やっぱり”無”かなぁー」


「へぇー」