【完】ぎゅっとしててね?

「桜木慶太はもういいのかよ?」


相変わらずの至近距離。
頭を押さえる右手はあたしが後ずさりすることも許さない。



「うん」



ヤヨなんか。
2%の迷いだったはずなのに。



……あたし、バカだからね。
全部失ってみないとわからなかった。



恋とトキメキの違い
今更になってわかった。



恋ってトキメキの延長線上じゃなかった。



恋って多分もっと深い。
積み重なるトキメキの根っこ。
心に根付いてなかなか離れないもの。



みんなが感覚的にわかってること
あたしやっとわかった。



「あたし慶太くんのこと大好きだった」


毎日楽しかった。
なにひとつ不満もなかった。




「それなのに、ヤヨが頭から離れなかった」



なにをやっても
頭の片隅から出て行かなかった。




あたしがヤヨをからかって、
ヤヨはあたしの好む態度をとる。



照れたり、余裕がなかったり。
その姿、あたし、大好きだった。



そのこと、ヤヨって気づいてた?
気づいてなかったらね、その罪は重い。



じわじわとあたしを虜にして、
最後の最後できゅうっと首を締め上げるように。



「俺の女になりたいんだ?」



ほら、こうやって、

突然オトコを見せつける。



ねぇ、魔性はどっちなの?