【完】ぎゅっとしててね?




「駅前って、広いから……」



大好きな声。
思いっきり顔をあげたら、キャスケットが脱げて、地面に転がった。


立ち上がって、彼に近づく。
髪がふわり、風に広がった。



「来てくれた……」



目に溜まった涙、必死で堪えたけど、
失敗。こぼれた。



「待たせてごめん」



彼はキャスケットを拾い上げて、あたしに手渡す。



黒い髪、ふわふわ。
奥二重のくせに大きな目。
八重歯は見えるか見えないか。
ほんの少しの、笑顔。




……ヤヨ。



「芙祐さ、これは雑すぎるから」



あたしからの手紙、
綺麗にたたまれたルーズリーフを見せた。



「駅前って、何駅の何口かくらいは書けよ。めちゃくちゃ探した」


「電話とか、くると思ってて」


「前にお前のアドレスとか全部消したからな」



ぐさり。
そんな笑顔で言わないで。



「行こうぜ」



ヤヨはあたしの隣を歩く。



でも道行くカップルとは
明らかに違うあたしたちの間隔。



付き合ってないって
こういうこと。



あたし、この前まで
片思い楽しいって言ってたけど、
変更。間違い。



……両思いになりたい。



「ヤヨ」



油断しすぎだよ、その左手。


あたしは思い切って、その大きな手をつかんだ。


女の直感?
なんかね、つないでも許してくれるかなって思ったの。