他人の自己犠牲を見て見ぬふりなんて。
パパもママもそんな風に育ててないよ、あたしのこと。



「ヤヨその傘使って。あたし慶太くん送ってから帰るね」



「……。わかった。じゃあ、どうも」



ヤヨの家はあたしの家とは逆方向。
学校を出て、徒歩圏内のヤヨはすたすた帰っていく。



あたしは置きチャリ。


ポンっと傘を開いた。
意外とこの傘大きめだ。



入って、って慶太くんのほうに傘さしだしたら。
優しく傘を奪われた。



「芙祐ちゃん傘入れてる?」


「うん。ありがと」


「送ってくから」


「あたしの家遠いよ」


「ふーん。たまにはいいね、遠回り」



明るい茶髪の下。
にこって笑う。優しい目。




ぴちぴち、
ちゃぷちゃぷ。


はずむのは雨の音。



「その髪色、怒られない?」


「芙祐ちゃんこそ」


「へへ」



今日も慶太くんからアロンの香水の匂い。
いい匂……


「芙祐ちゃんいい匂いするね」


タイムリー。
同じこと思ってたよ。
つい見上げちゃった。



「ん?どーした?」



「ううん。慶太くんこそ、それアロンでしょ?」


「よく知ってんね」


「香水スキだから」


「芙祐ちゃんのはどっちかっていうと」


ふわっとアロンが近づいた。



「花……?シャンプーの匂い?」



っていうか、近いから。



ここで照れたら負けも同然。
負けじとあたしも見上げてみる。



「「……」」


先に目をそらしたのは慶太くん。


「……っと?なに?にらめっこ?」


ってクスリと笑う。


「あたしの勝ち」


「変な子だねー」


「へへ」