「そうじゃなくって。これ。好きな子にうつつ抜かしてないで、夢に向かって頑張れ」



麻里奈はにっこり笑って、
その手に持つ紙を、ひらひら揺らせて見せた。



3年になったら理数科に行く。



その試験合格を知らせる紙を麻里奈が……。
なんでお前が持ってるんだよ。怖いわ。



「やっちゃんやっぱり頭いいね。理数科に転科って難しいんでしょ?」


「べつに」


「これはもう出世コースの始まりだよ、やっちゃん!」


麻里奈は目を輝かせる。


「お前さ……」



昔言ってたよな。



やっちゃんは勉強頑張って、出世コース目指してね。
私は家庭科頑張って花嫁修業……云々。




「俺、麻里奈とだけは間違っても結婚しないから」


「えー?」


「えーじゃねぇよ。ふざけんな」


「養ってほしかったなぁ」


「それ何人に言ってんだよ。怖えわ」



くすっと麻里奈が笑う。鬼。



「まぁ私のことはいいから。ケリつけてきたら?」


「はいはい、どーもな。麻里奈もさっさと彼氏作れよ」


「任せといて。でもなかなかやっちゃんよりいい人っていないんだよねぇー」


「言ってろ」



心底思うけど。


俺って、麻里奈とか芙祐とか。
なんでメンドクサイやつにばっか惚れんだろ。



モグの散歩がてら、麻里奈を家まで送り届ける。
麻里奈の後ろ姿を見てたら、ため息がでた。




幸せ逃げるらしいから、ため息はこれで最後にしとこ。