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翌日、先生は申し訳なさそうに
あたしたちに仕事を頼んできた。



静まりかえった印刷室。



ピーーー。
電子音、やけに響くね。


印刷終了の合図。



気まずさに凍りそう。
うん、いっそ凍りたい。



「なぁ」


せっかく。
ここまで沈黙に耐えたのに。



「なに?」


コピーの済んだプリントを揃えながら、返事した。
ヤヨのほうは見ない。



「それ貸して。俺が持ってくから」



バッと奪われて、代わりにあたしの手のひらには
見覚えのあるパッケージのお菓子。



「いらな……」


ヤヨ、コピー室から出て行っちゃった。
早業。マジシャン。



この抹茶クッキーって
クリスマスイブにヤヨに会ったとき一緒に食べたやつ。
幻の復刻版のやつ。



うま、って。
ヤヨ笑って食べてた。



愛だの恋だの、
全部邪魔なの。



でもあたし。
ヤヨの笑ってる顔不足。



「はぁ……」



あたし、何がしたいんだろ。



ヤヨからもらったお菓子、握りしめて。


下駄箱の前、数秒停止。
ヤヨの出席番号は、15番だっけ。



ヤヨの下駄箱に、
さっきもらったお菓子は返しておいた。