ヤヨと0.1秒とかそのくらい、目が合った。
だからあたし、逸らしたんだけど。



「芙祐」


って、声が届くより早く。


あったかくて力強い手が、
あたしの右手を捕まえた。



それも、みんなの前で。



男子たちと話してたはずのヤヨが。


椅子に座ったまま、あたしの手を掴んで、こっちを見上げてる。



男子たちも「?」って。時、止まってるよ。



なにより時が止まってるのあたしだけど。
びっくりして、5秒くらい。
ヤヨと見つめ合ってた。



ハッとして、手を振りほどいた。




わいわいがやがやしてた教室。
あたしたちの周りだけ、ボリュームが下がってる。




……注目の的。



しん、と、した時。



「誕生日おめでとう」



「昨日……なんですけど」



「知ってる。でも芙祐が去年言ってたアレ。覚えてるから」



……。
アレ。



あたしもすぐ思い出した。

心の奥の奥のもっと奥。


ほわってあったかくなるような思い出。



「うん。ありがとう」



ぎゅっと拳握りしめる。

この右手には何もなかったんだよって、体に教えるの。