「どこにいくの?」


「これ」


「わ。うれしい!」



手渡したチケット。
この前観たいって言ってた映画のね。


本当は観たいって聞く前に観に来たかったよ、わかってる?



「たのしみーっ」


まぁいいや。
楽しそうだし。
チケット眺めてにこにこだね。


「E&シネマ?どこの映画館?」


「隣の市の映画館。小さいけどいい感じだよ」


「ふぅん?」


多分ね。いや絶対。
芙祐ちゃん気に入ると思うよ。



隣の市に出て、駅徒歩3分。


2月の冷たい風にさらされて、赤くなった芙祐ちゃんの頬と鼻。
頬に手を当てたら「あったか~い」って幸せそうだね。



大きな建物。黒い壁に赤と黄色の文字でE&シネマ。


自動ドアがひらいたらやっと暖かい空間。



「あたしポップコーンの匂いスキ」



芙祐ちゃんはマフラーを外して仕舞うと、
手首にひっかけてたシュシュでポニーテールをつくる。



ふわって、花の匂い。
ズルいね。



「ポップコーン食べよ?」


「いいよ」


「あたしキャラメルがいいなぁ」


「じゃあそうしよっか」



列に並んで、キャラメルポップコーンを注文。


ポップコーンに、更にフレーバーをひとつ選んで味付けパウダーっていうのをかけれるらしい。



「キャラメルにはキャラメル味かなぁ?あ、チョコもあるんだ。おいしそう……」



そう言いながら、じぃーって見つめる先は。
俺じゃないんだよね。



大学生くらいのバイトかな?
その、見つめられてる真っ最中の、ポップコーンを握る男は、



「チョ、チョコもかけましょうか!」


って、何やってんの。芙祐ちゃん。



「いいんですか?ありがとう」



にっこり。
ピンクのぷるんとした唇は嬉しそうに弧を描く。


ついでにストロベリーもかけてもらえてよかったね。



満足そうにポップコーンを受け取った芙祐ちゃんだけど。



「彼氏の前で色目使わないでね」


「色目?」


そのいたずらっぽい笑顔。
自覚あるでしょ。小悪魔。魔性。



「ああいう顔、他の男に見せたくないな」


「なにそれー」



慶太くんらしくなーい、って。



「俺だって妬くよ」


「うそ?妬いてくれたの?」



ってか、残念ながらいつも妬いてるけどね。



「へへーっ」


嬉しそうに笑う頭、軽くポンってしたら。
もっと喜んじゃったよ。
あーあ。
可愛いなぁ。