【完】ぎゅっとしててね?

「ゴミ、捨ててくるね」


慶太くんが遠ざかる。


……ふぅーって、ながーい溜息。


シアワセ逃げるタイプの溜息じゃないからね。


落ち着け、あたし。
どきどきしちゃって、なんか恋してるみたいじゃない?


……いや、恋なんだけど。


楽しいかも……楽しいかも。



「土屋さん。ひとり?」


その声に顔をあげると、たしか、同じクラスの……。名前がわかんないや。


「ううん」


「だよな。藍たちと一緒?俺らとお化け屋敷行かね?」


「お化け屋敷?そんなのあるの?」


「結構怖いらしいよ。男だけで行くのもつまんないからさ」


「でもあたし、だめだよ」


「なんで?」


「えーとねー彼・」「何してんの?」



あ。慶太くん。
にこっと笑って、男子たちに問う。



「英文科の……桜木?」


「2人って知り合いなんだ?」



男子たちがあたしに尋ねる。


男子たち、慶太くんの名前知ってるんだ。
そりゃそうか。とってもモテるって噂らしいもんね。

男女ともに有名でもおかしくないよね。



やるなぁ、慶太くん。


あたしがそんなことを、ぼーっと考えてたら。



慶太くんの腕が、
後ろからあたしを抱きしめた。




「……俺の彼女だから。遠慮して」



耳元で、慶太くんの低い声。

アロンの香り。
暖かいぬくもり。



思わず後ろを見上げると、慶太くんはいつも通り、いたずらっぽく笑ってる。



「……はい、遠慮します」


って、男子たちも即答するほど。
だって、慶太くんのオーラってすごいんだもん。



あたしは赤面しながら、その腕をほどいた。



「……色気大魔神」


「ははっ、ナニソレ?」



慶太くんは余裕ありげに笑ってる。


あたし、多分。
慶太くんから醸し出される色気に耐えられない。