「はぁ」

加里塾の窓辺、淵に腕をかけ、物憂げなため息が漏れる。

馬鹿ふたりが颯爽と出て行ってしまったその後は。

常時から五月蝿いこの塾は、最早 無法地帯。

ぎゃースカぎゃースカ喧しい。

先程まで、見つめていた景色を思い起こす。

ようやくか、というような気の遠くなる時間を重ねて結ばれたふたり。

やわらかい光の中、溶けてしまうようなそれを、この瞳に閉じ込めることを、決意したのは私自身。

ツキンー

そう、鈍く淡く小さな痛みを訴えた、胸のあたりを小さく撫でる。




「おい、水野」

「ん、青井」

まるで、全て知っていると言わんばかりに、片頬をあげて空いた隣のスペースに、するりと入り込み、同じように窓淵にもたれかかる。

「…綺麗な……月…だなぁ」

そう、ふっと消えていってしまうような声音で夜空へと投げられた青井の言葉

それを、ゆっくりと心の奥で反芻しながら



「…そうね」



そう、返す。


ずるりと大袈裟に体勢を崩した青井に、ひんやりと冷たい瞳を送った後で、そっと紡ぐ。

「…あのふたり、バカっぷるってやつになるかな」

「……じゃねーの」

「…そっか…」

「俺、既にバカっぷるの予兆を2回受けてる」

「…マジでか」

「やぁー、こんなにいい月見ちまうと、無条件に鼻水ってやつは、出てくるもんだね」

「…っ……そう…ね…っぐ…その…とお…り……」

はぁー、やだやだ なんていいながら、ティッシュを箱ごとふたりの間に置いてから、組んだ腕に顔を埋める青井

変なとこで、気を回すな なんて思いながら、ほんのりあたたかな気持ちを味わう、穏やかな夜だった。