修羅は戯れに拳を振るう

人間の勘というものは、時に超能力めいたものを感じさせる事がある。

明け方に胸騒ぎを覚え、龍宇は朝靄煙る格闘特区を歩き回っていた。

何か根拠があった訳ではない。

ただ、嫌な予感がするという、漠然としたものだったが。

その漠然としたものが、龍宇の目の前で具現化する。

「莉々!」

人目につかない通りに倒れている、ボロボロのコスチュームを纏った金髪の娘。

華やかで艶やかな莉々の、変わり果てた姿だった。

龍宇は駆け寄り、すぐに莉々を抱き起こす。

口元には何度も吐血した跡、露出した腹には、青紫に変色した内出血と拳の痕がくっきりと残っていた。

莉々の脇腹に、軽く触れて触診してみる。

肋骨も何本か折れているようだ。

何より一番はっきりと残っている両掌の痕。

これは虎撲烈波の痕跡。

同じ技の使い手である龍宇が、見間違える筈もない。

この技を彼に教えたのは…。

「師匠…!」