修羅は戯れに拳を振るう

呑まれた以上、道場生達に為す術はなかった。

蹂躙し、暴虐の限りを尽くす男。

道場生達が一人残らず地べたに這い蹲る頃。

「それくらいにしておいたらどうだ」

一人の男が、ゆっくりと歩いてきた。

シルバーのジャンパーを羽織った、顎髭を生やした男。

三沢 光秀(みさわ みつひで)。

オールジャパンプロレスリングのスター選手であり、同団体のエースの一人だ。

道場生達を連れ、この格闘特区に合宿に来ていたのだが。

「ウチの若手連中がいいようにやられちまって…一体お前、何者だ?」

普段は寡黙な三沢だが、自分の後輩達がこうもやられてしまっては黙っている訳にはいかない。

詰問するも、男は無言。

寧ろ邪な笑みさえ浮かべて、三沢を見る。

青白い闘気を立ち昇らせ、睨み合う両者。

直後。

「っ!」

無言のまま、三沢は男の側頭部に突進からの肘打ちを叩き込む!

ランニングエルボー!

三沢の得意技の一つだ。