修羅は戯れに拳を振るう

元々龍太郎と闘う気はなかったのだ。

完全に相手の誤解。

しかし、一撃入れられて黙っているほど、龍宇も大人ではない。

天地上下の構え。

「…!」

それまで笑みを浮かべていた龍太郎の顔が、瞬時にして引き締まった。

龍宇の身に纏う気配が急激に変わったからか。

「…てめぇ、流儀は何だ?」

「…活人拳を源流とする格闘術だ」

構えたまま言う龍宇。

「活人拳だぁ?」

訝しげに龍太郎が言う。

活人拳。

読んで字の如く、人を活かす拳。

だが、龍宇の身に纏うこの気配は何だ。

圧倒的な闘気。

いや、これは闘気というよりも寧ろ…。

「こちらから行く」

龍太郎が考えている間に、龍宇は動いた。

強い踏み込みから、人体を突き破るほどの貫徹力を誇る強い回転を加えた貫手、人越拳ねじり貫手(じんえつけんねじりぬきて)!

「やべぇっ!」

龍太郎が思わず口走るほどの威力!

咄嗟に首を捻って回避した龍宇の貫手は、龍太郎の肩越しに背後のブロック塀を穿った。