修羅は戯れに拳を振るう

「見えねぇのか、この腹が」

親方はバシン!と自分の腹を叩く。

「力士ってのは只のデブじゃねぇ。分厚い脂肪の下は、プロレスラー並みの頑強な筋肉に覆われてんだ。お前ら貧弱な空手家の薄っぺらい筋肉とは比べ物にならないほどのな」

「…俺は空手家じゃない」

瓦礫の中から身を起こす龍宇。

「空手家じゃなかったら何だ?臆病者か?」

親方の言葉に、取り巻き達が笑う。

その挑発にも乗らず、静かに構える龍宇。

とはいえ、親方の言う通り、あの分厚い脂肪と筋肉では、並みの打撃は通用しない。

ならばどうするか。

龍宇は何の対策も施さずに親方に接近する。

「何だぁ、自殺志願か?」

にやつく親方。

お望み通りに殺してやると、顔面を狙った突っ張りを繰り出すのを、紙一重で躱し。

「シュッ!」

龍宇は何の変哲もない右正拳突きを、親方の腹に打ち込む!

蹴りでも倒せなかった親方を、基本中の基本、正拳突きで倒せるものか。

誰もがそう考えた。

しかし。