修羅は戯れに拳を振るう

その頃、格闘特区の別区画。

この辺りには空手道場やプロレスの道場、ボクシングジムなど、格闘技の稽古場が乱立している。

いつ来ても他の区画よりも暑く感じられる。

まるで猛獣の檻(ケージ)が並べられたサーカスの舞台裏のようだ。

肉が肉を打つ音、咆哮のような掛け声、畳やマットに叩き付けられる受け身の音が、絶え間なく響いている。

その通りを歩いていた龍宇は。

「おいっ!」

巨躯の男と肩がぶつかり、苛立ち混じりの声をかけられた。

「どこ見て歩いてやがる!親方に謝れ!」

一際大きな男の周りにいた取り巻き達が、龍宇に食ってかかる。

「どこ見ても何も」

龍宇はゆっくりと振り向いた。

「俺は道の端を歩いていた。ど真ん中を歩いて、ぶつかってきたのは寧ろそちらだと思うが」