修羅は戯れに拳を振るう

「え?」

思考途中で呼びかけられた莉々は、我に返ったように振り向く。

「ええ、したけど…大学相撲レベルの、大した事ない相手だったわ」

「その力士の師匠…親方って言った方がいいでしょうか…そいつが莉々さんを探し回っているらしいですよ?」

「あら…」

莉々の瞳に、強い光が宿る。

弟子に土を付けたのが小娘とあっては、相撲部屋の沽券に関わる。

さっさと土は払い落とさなければならないといった所か。

弟子の喧嘩に親方が出張る方が、余程沽券に関わるような気もするのだが。

「何アルか、揉め事アルか?私の手が必要アルか?」

また何故か嬉々とする鬼龍。

何だかんだで闘いたいだけらしいが。

「いけません」

莉々は鬼龍のふくよかな胸をグイと押し返して、席に座らせた。

「鬼龍さんはお客様ですから。今日は食事だけして帰って頂きます」