修羅は戯れに拳を振るう

「おめぇは気付いてるって顔だな」

対峙した龍宇を見ながら、松岡はニヤリと笑う。

「ああ…お前からは血の匂いがする。真っ当な武道家ではない」

「まぁな、否定はしねぇよ」

両手にレザーグローブを付けながら、松岡は頷いた。

「職業柄、恨みもねぇ人間を殺してるとよ、こういう表の世界で殴り合いもしたくなるんだよ。仕事抜きでな…ただ」

パシッと掌に拳を打ち付ける。

「俺の拳骨は痛ぇぜ?文字通り死ぬほどな」

「……」

バンデージを厚めに巻いた左右の拳を握り締め、龍宇は松岡を見据えた。

人を殺した経験のある松岡の殺気を纏った視線さえ、真っ向から受け止める強い意思。

「へぇ…」

松岡はもう一度、ニヤリと笑った。