「知りませんでした。師匠が高名な龍娘さんと面識があったとは…」

龍宇が呟く。

「顔を合わせたのは後にも先にもその一度きりだがな。話した通り、拳を交えた訳でもないし、闘う姿を見た訳でもない。だが直感した」

龍娘は閉じていた眼を開く。

「この男は必ず道を踏み外すと」

「!」

龍娘の言葉に、龍宇はハッとする。

「武道家として、己の往く道に迷いが生じるのは悪い事ではない。私の弟子も私自身も、そうやって皆、大成してきたからな。迷いなき順風満帆な武道家人生を送る者は、然して強くならないとも言える。しかし…」

龍娘は足を組み替える。

「修羅の迷いには、一種危うさがあった。その名の通りの修羅道…殺し殺されの魔道へと堕ちていく危険な匂いを感じさせていた」

「…師匠は、その修羅道に堕ちたと…?」

最終確認をとるように、問い掛ける龍宇。

「縁もゆかりもない莉々を、いとも容易く殺しにかかるのだ…その可能性は高かろう」

龍娘は傷ついた莉々を見ながら言った。