修羅は戯れに拳を振るう

李 書文は北京にて行われたある武術家との試合では、決め技の前の牽制の突きだけで相手を打ち殺してしまい、逮捕されぬよう慌てて滄州へ帰ったといわれている。

また山東省で鉄頭王と呼ばれた武術家との果し合いにおいては、『貴方は私を三回打って良い、その後に私が一度だけ打つ』と言い放ち、怒った鉄頭王が渾身の力で書文を三度打つもびくともせず、その後に書文が脳天に掌打を打ち込むと、相手の頭は胴に沈み即死したという。

数々の武勇伝に示されるように非常に気性の激しい人間として知られ、晩年は『凶拳李』と呼ばれ恐れられたという。

また劉 雲樵という武道家も書文の弟子であった頃、書文の気性の激しさから殺されるかと思った事が何度もあった述べている。

「世に拳聖として知られ、武術の神のように崇められていながら、その人生において幾度となく殺人を犯している…不思議とは思わないか」

「何がだ！」

回りくどい言い方に、苛立ちを募らせる龍娘に。

「拳聖とは何だ？人を殺せる事が武術の神の証か？武道とは心身共に鍛錬する事ではないのか？強ければ…殺生すらも許されるのが拳聖か？」

修羅は言い放った。