お風呂もあがって部屋に入り宿題を始める。
「ちょっと、もう少し手ぇ抜けって」
「もうすぐ、レギュラー発表だからなっ!」
窓の外からの声。
「絶対、エースナンバーの1番とってみせる。」
「わかったから、ラスト10球な。つぎ、左バッターインコース高め」
まだ、練習してるのか。
まったく、勉強はいつしてるんだか。
投手の縁はいわゆるサウスポー。
チーム唯一の左利き。
変化球はカーブとスクリュー。
あと、もう1ついま練習中の変化球があるんだよね。
監督にもコーチにもキャプテンにも秘密の球。
「つぎ、左バッターインコースにナックル。」
そう、魔球と呼ばれるナックル。
ナックルは無回転の球。
だから、軸がブレて手元で不規則に変化する。
この球をとるのにはキャッチャーにも技術が必要。
「ちゃんと投げれてるけど、コースは甘いな」
「ナックルコントロールすんの難しいんだよ。」
「命!縁!」
私が窓から体を乗り出して言う。
「明日も学校なんだから早く切り上げて!」
「うわー!また楽にみつかったー。」
「そもそも、縁の声がでかいだけ!近所迷惑!」
「わかったよ。縁、きりあげよう。」
「だな。」
二人はそれぞれの家に戻っていった。
ピコン。ラインの音だ。
縁からのラインだ。
《ちょっとくらい、ゆるせっつの!》
二人とも野球バカなんだから。
《ゆるして、からだ壊されても困る。》
私はそう返信した。
命も縁も2年生ながらチームの主力。
そんな二人が欠けたら甲子園なんて、夢のまた夢だ。
今日は木曜日。朝から野球部の練習。
朝練は強制じゃないけど、もちろんみんな参加する。
私はそのお手伝いをさせてもらう。
みんなの力になるならなんでもする。
甲子園に行って頂点に立つことができるなら。