初恋バッテリー

「なんで?」
ブルペンに入ろうと思ったら縁の声が聞こえてきた。
「なんで、ナックルのサイン出さなかった?」
縁の声は力強くて怒っているようだ。
バン。
ミットにボールが収まる音。
一応キャッチボールはやっているようだ。
「まだ、監督にも言ってないだろ?
それに、甲子園まで秘密にするって約束したし。」
命は落ち着いて答えている。
「はぁ!?」
ブルペンに足を踏み入れようと思った瞬間だった。
「甲子園、甲子園って今日の勝たなきゃ意味なかっただろ?」
縁は完全に怒っていて感情的に話している。
声も普段よりとても大きい。
「結果、勝ったじゃん。」
命は変わらず冷静だ。
「なんで、インコースに構えた?」
声は小さかった。
「5回、ホームラン打たれた後。ノーアウト、1・2塁。
なんで、インコースに構えたんだよ!」
「縁なら投げ込めると思ったから。」
「はぁ?」
バン!
ボールはストライクゾーンから大きく外れたがミットにはおさまっている。
「完璧なピッチャーなんていねぇよ。」
「じゃあ、完全試合なんて無理だな。」
命の言葉とは思えなかった。
命はそんなこと言うような人じゃない。
もっと相手のことを考えて言葉をかける人だ。
2人の目標である『完全試合』を潰すようなことを。
「このままじゃ、ノーヒットノーランも無理だ。」
「もういいよ。」
そう言って縁はブルペンを出た。
ブルペンのすぐそばにいた私のことには気づかなかったようだ。
「命、言い過ぎ。」
私がブルペンに入りながら言う。
「聞いてたのか。」
命は立ち上がってブルペンを出ようとした。
「命さ、知ってるよね?」
「何が?インコース、怖がってたこと?」
「それもだけど。」
命の目はすごく怖かったけどそれは縁のためだってすぐにわかった。
「イップスになられても困るし。」
「イップス・・・」
「で、何?用件あったんじゃないの?」
顔は笑顔だったけど声は笑っていない。
「3色バッティングするから、グラウンドにって」
「わかった、ありがとう、楽。」
「まって。」
「なに?」
最後にこれだけは言っておかないと。
「縁が首ふらなかった理由考えといて。」
「は?」
「宿題。期限は次縁と会う時まで!」
私がいうと命は笑った。
「わけわかんねぇ」
そう言ってブルペンを出ていった。
珍しい、2人が喧嘩するなんて。
それに、縁が命のリードに文句つけるなんて。