初恋バッテリー

音楽室を出ると源先輩が待っていた。
「去年も来たの?」
「来ましたよ。こっちはお願いする身ですから。」
そう言って廊下を歩き始める。
源先輩のユニフォームは泥だらけでスライディングした後が伺える。
「吹部の奴らが言ってた意味がわかったよ。」
「え?」
「いいマネージャーさんでよかったねって。」
「そんなこといですよ。普通です。」
ユニフォームは汚れているけど汗臭くはない。
たぶんアンダーシャツを着替えたんだ。
あ!洗濯しとかないと。わすれるところだった。
明日も試合だし大変だな。
「そんなことねぇし。今日も市丸の言葉に助けられた」
「私の言葉じゃなくてみんなの行動ですよ。
私が言ったところで行動しなきゃ変わらないですし。」
「でも!」
そう言って源先輩は足を止めた。
「市丸が言ってくれなきゃ気づかなかった」
源先輩の目は真剣でまるで告白されているようだ。
「行動もできなかった」
その目に圧倒されて私は何も言えなかった。
「俺はあの時イライラしてた。あんなこと言って本当にごめん。」
「気にしないでください。」
「市丸のおかげで俺達がここにいる理由、思い出せた。
試合に勝つことに必至で視野が狭くなってた。
市丸には本当に感謝してる。」
源先輩にそう言われたことが率直に嬉しかった。
「先輩、ありがとうございます。行きましょう、食堂。」
「市丸!いや、楽。」
「え!」
源先輩が呼び捨てで読んでいることに私は驚いた。
「これからも俺達が野球するために俺達をよろしくお願いします。」
源先輩は頭を下げた。
「当たり前じゃないですか。何のために私がいると思ってるんですか?」
「だよな。楽ならそう言うと思った。」
源先輩が『楽』って呼ぶたびにドキってする。
でもそれにも慣れていかなきゃね。
私の目標が増えた。
野球部のみんなに『楽』って呼んでもらうこと。
呼び捨てにしてもらえるって『信頼』されてることだと私は思った。