どう帰ってきたのかわからないけど
自室のベッドの上に転がっている私。

あの時見たものが頭から離れない。



笑顔で駆け寄ってくる翔。

その後ろには、例の千歳選手がいた。

翔だけを見ててそれに
気づかなかった私達は
びっくりした。

千歳選手が、
また、あの、
テレビのような、
翔の腕に絡まった。

翔の笑顔は固まって、後ろを向く。


ああ、もう嫌だ。


そうして私はとにかく翔から離れたくなった。



空港ではスーツ着てたけど
さっきは水着のままで
上半身は裸な訳だし。

あーあ、もうほんと嫌だ。

翔は年上が好きだったんだ。



ガチャッ
部屋のドアが開く音がして
反射で振り返る。


柚「えっ、」



そこに来たのは予想もしない人物で。



柚「志田くん…?」


陽「大丈夫ー?
荷物置いていったから
届けに来ただけー。じゃー。」


柚「え!?あ、ありがとう!?」


陽「なんで疑問形なわけ笑」


柚「わたし荷物も置いて行ったんだ…」



荷物まで置いて行ったなんて
自分でもびっくり。

ほんとどうやって帰ってきたの、自分。

はっとして寝っ転がってた
体を起き上がらせる。



陽「定期だけはポケット持ち歩きで
良かったなー。」



なるほど。



柚「てか、なんで志田くんが?
家遠いのにごめんね!
悟流とかに預ければ良かったのに…」


陽「いや、ふたりともなんか
翔太と話すまで帰らない、
的なこと言ってて。
荷物ずっとないのも大変だろうし
俺は帰ってきたってわけ。」


柚「うわ、なんかホント申し訳ない!」


ありがとう…と言い終えないうちに

ダッダッダッダッ……


2階の私の部屋までの階段を
半端じゃない勢いで走ってくる音。

来たか。

来るとは思ってたけど。



「ゆず!」



怖い顔をして入ってきたアイツ。



陽「めっちゃ来るのはや!」


翔「ごめんな、陽大、
うちの柚羽が迷惑かけました。
とりあえず帰って。」



そう言われて、
はいはい、じゃーねー、
と言って去る志田くん。


と、とりあえず帰って!?!?



柚「いや、それはないでしょ翔!
志田くん荷物届けてくれたのに!」


翔「いいの、ごめん、
とりあえず、いいの。」


柚「は…?」



意味がわからないけど言葉を並べてる翔。



柚「で?なんで来たの?」


翔「ハァ…やっぱ勘違いしてるよもう…」


柚「何が?というか帰りなって。
女の子の部屋にいたら
それこそ勘違いされちゃうよ?」



私だって、綺麗な、
純粋な心の持ち主じゃない。

どこかで期待してるし、してたけど、
もうそんな心をも崩れそうなんだから。



翔「よく聞いて。
俺は別にあの人のこと
なんとも思ってない。」


柚「へ?だって…」


翔「いいから俺の話聞け。
ゆずは黙って。」



翔の顔が相変わらず怖い。

さっき来た時もゆずって呼ばれたけど、
こう呼ぶときは結構焦ってるとき
って知ってる。

小さい時、
お菓子の取り合いになったときとかは
いつもゆず、ゆず、
って呼ばれてた。



翔「あの人正直迷惑だった。
でもさ、年上だし性別違ってもチームだし、
雰囲気悪くさせたくなかったんだよな。
空港の映像があんな広まると
思わなかったし。
だからね、今日、練習のあと受けた取材で
言ってきた。
俺は千歳選手ではなく、大切な人がいます。
って。」


柚「ほお…。」



忘れるはずもない、
"俺は柚羽一筋なんだから"の言葉。




翔「だから、わかるでしょ。
ゆず、俺と付き合って。ゆずが好き。
ゆずが大切。本当に大事なんだ。
さっさと俺の物にしとけばよかった。」