「ゆーずーはー!」


「痛っーい!!!」



叩かれた頭をさすりながら
顔をあげる。

暖房の効いた部屋で
ついうたた寝していた。

せっかく寝てたのに……

と、目の前に顔。



柚「もーう、なによ!
家に入り込んで!
しかも女子の部屋!勝手に!」


翔「何、今更そんなこと気にしてんの?
ていうか宿題の途中で寝てる
柚羽もいけないでしょ。」


柚「いや気にしてる訳じゃないけど、
叩かなくたっていいじゃんよ。」


翔「だってまたしばらく会えないから
無理してでも起こした。」



目の前の顔は幼馴染み。

松木翔太。
近所に住んでる同い年。

こうして家に上がり込んでくることが
多い。

あいつは顔を私の顔の目の前から離して
勉強机の椅子に座っている
私の足元にあぐらをかく。



柚「翔、海外遠征なの?」


翔「うん、まあ。
ドイツに、2週間くらいかな。
3日後から。
だから会いに来たの。」


柚「あ、そう…。」



私は倉安柚羽。
16歳、高校1年生。

会いに来たの、
なんてこんなルックスの奴が
他の女子に言ったらイチコロだろう。

とか言ってる私もドキドキしてたり。



翔「何、柚羽さみしいの?」


柚「え、なにいってんのよ。
さみしいのは翔でしょ。」


翔「んー、まあね」



にやにやしてる翔。
こいつ、なんなんだ。

端から聞いたら
まるで恋人のような会話。

ただ、私達は恋人なんかじゃない。

ただの幼馴染み。



柚「未来のスター選手だもんね。
次は金メダル確実
って言われてるし。」


翔「まあ、夏が来たら
金メダル見せてやるよ。」


柚「そりゃお楽しみだね。
金メダルかけてもらうから、絶対」


翔「ん。」



翔は、実は水泳選手。
自由形を専門としている。

世界的に注目されてる選手だ。

たまに取材のカメラが回ってたりする。

私とおなじ高校に一応は在学してる。

でも、あんまり来ない。

ただ、頭はいい。

水泳一筋の人間。



柚「頑張ってね、
イケメンスイマーさん。」


翔「柚羽もきてよー。
イケメンスイマーさん、疲れた。」


柚「私学校なの。
イケメンスイマーさんとは違って
勉強しないとバカになるから。」



メディアに言われてる、
イケメンスイマーの言葉を
ちゃっかり使ってる
イケメンスイマーさん。

確かに、幼馴染みの私が認める
イケメンなんだけどね。

たまに一緒に登校すると、
女子からの視線が痛かったり。
男子からからかわれたり。

仕方ないじゃない、
べたべたしてくるのは
向こうなんだもん。



翔「俺のいない間に
変なことされるなよ。」


柚「そんなん私の自由でしょー。」


翔「んー、違うでしょ、
柚羽は俺のだし。」


柚「……なっ、」


翔「……照れてる♪」



なに、なになに。
最後の語尾の音符マークは、なに。

私の幼なじみは、
とりあえず、Sっ気が半端ない…