「葉山」

「は、はい……っ」

「覚悟しとけよ」


突然そんなことを言われたけれど、なんのことかはさっぱりわからないまま、私は彼に頭を撫でられていた。



それからお互いに言葉を発することはなく。


私の家まで送ってくれた黒川くんは、そのまま反対方向へと戻っていった。




その後ろ姿を見つめながら、すっかり涙が止まっていることに気がつく。




「……なん、なの」



今このときの私の頭の中にあったのは、好きな人と友達のキスじゃなかった。



私をいつも助けてくれる彼の、最後の優しい笑みだった。