二人は踊り終わると、近くの椅子に座った。


「ハンナ様、なにかお飲みになりますか?」

リリアーナはちょうど喉が渇いていたため、アドルフの問いかけにうっかり頷きそうになり、慌てて首を振った。

アドルフは不思議そうな顔でリリアーナを見たが、すぐに笑って「遠慮してるんですか?」と聞く。

「い、いや。本当にいいの。ありがとう。」

リリアーナはそう言って笑顔を見せた。

アドルフは自分で注いだグラスのワインを飲み干すと、他のグラスにリリアーナの分のワインも注いだ。

「ハンナ様、お飲みください。先ほどからずっと、あまり楽しまれていないようですので。」

アドルフはグラスをリリアーナにスッと差し出し、それから声をひそめて言った。

「何も入ってはいませんよ。僕がさっき飲んだのと同じものです。」

リリアーナは「ありがとう」と言って受け取ると、渇いていた喉に勢いよく流し込んだ。

アドルフはその様子に驚きつつも、可笑しかったのか、またグラスにワインを注いでやった。

リリアーナはそれをまた飲み干すと、アドルフの手から半ば奪い取る形でボトルを受け取り、自分のグラスにギリギリまで注いだ。

顔が赤くなりつつあったが、それも勢い変わらず飲み干してしまった。

その様子を見たアドルフの顔は、もはや引きつっていた。

「…ハンナ様、そろそろ…」

リリアーナは言いかけたアドルフを一瞥すると、今度はボトルに口を付けようとした。

それにはさすがのアドルフも止めにはいったが、もうすでにラッパ飲みを始めてしまっていた。

もともと半分ほど入っていたワインを、リリアーナは人目も気にせずすべて飲み干そうとしているようだ。

会場の人はリリアーナに好奇の目を向けていて、アドルフは張本人でもないのに冷や汗が出ていた。

「リリアーナ様…」

「飲み干したわ!」

リリアーナは赤い顔でそう言うと、ふらふらとした足取りで歩き出した。
アドルフはリリアーナを支えようと腕を取る。

そんな様子を遠くから見ていたイザベラは、どこか嬉しそうに笑っていた。