Time Paradox

言葉も出ないほど驚いていたリリアーナは我に帰ると、反射的に手を引っ込めた。

傷は浅かったものの、まだ血は流れていた。

「リリアーナ様、右手の手当てをいたしますので。」

そう言ってリリアーナの右手をまた掴むと、傷にガーゼを当てた。

ルーカスは目を覚ましたリリアーナに何の反応も示さないようだ。

リリアーナは、ルーカスが何のためにこんな事をしたのかという事は言われなくとも分かっていた。

このバラの模様は、マーカスにリリアーナを差し出す時の証拠となるのだ。

ただ、どう反応したらいいのか分からず、微動だにしない彼の顔を黙って見つめていた。

すると、ルーカスの方から先に質問を投げかけてきた。


「リリアーナ様、この状況を見て何とも思わないのですか？」

だがリリアーナは、下を向いたまま答えなかった。いや、答えられなかったのだろう。

「この模様が何を示しているのか、と言うこともきっとお分かりですよね？」

リリアーナは曖昧に首を横に振った。

「リリアーナ様はもう、とっくに記憶がお戻りですよね？」


リリアーナは、その質問に間を置いて答えた。


「…いいえ。」


「魔法を使われる可能性があるので警備を強化しなければなりませんね。」


ルーカスはそう言うと、部屋を出て行った。