Time Paradox

踊り終わると、男はリリアーナと付かず離れずの距離に居た。


案の定、赤と黒のゴージャスなドレスに身を包んだ、赤茶色の髪の女が近付いて来る。


「あなたが噂のリリアーナ様ですの？」

女はリリアーナに、じっとりと嫌味を含んだような笑みを向ける。

リリアーナは距離を取りつつも軽く膝を折って「えぇ。」とだけ言った。


「…何でも、命を狙われてるんですって？」

女は眉根を寄せて、わざとらしく悲しげな表情を作る。

「…私、その話を聞いたら怖くって…」

そう言ってリリアーナも悲しそうな顔をした。

女は持っていた赤ワインをリリアーナに渡す。


「…辛いでしょうけど…これを飲んで元気をお出しになって？」

そう言って女は去って行った。

だがあの男が言うには、このワインを飲んでしまえばせっかく取り戻した記憶が消えてしまう。

それだけは避けたかった。


女は少し離れた所から様子をうかがっている。

テーブルの上に置いておけば誰かが間違って飲んでしまうかもしれない。

どうしていいか分からずにいると、さっき踊った男が近付いて来て、偶然を装いぶつかった。