Time Paradox

ドアが開く音に思わず振り向くと、そこには長身の男が立っていた。

黒髪に瑠璃色のような深い青色の瞳。

どことなく、先ほど連れ去られた時に前の座席に座っていた男に似ていたが、あれほどまでに冷たそうな目はしていなかった。


リリアーナは思わず警戒して起き上がるが、男はお構いなしにリリアーナの顔を覗き込んだ。


「…傷一つ作らずここまで連れ出すとは。」


そう言って男が頬に触れようとした瞬間、リリアーナは下を向いた。


男はため息をつくと、立ち上がって部屋を見回した。


「…この部屋、久々に入ったなぁ。」

男はそう言いながら目を細めた。

「…こういう使われ方をしたのは何年振りか…。昔はよく使われてたんだがな。」

「…こういう使われ方って？」

リリアーナは聞き返す。


「この屋敷に来客を招く事は滅多にない。…だが今から６年ほど前、この屋敷にはたくさんの人間が出入りしていた。６年前、何があったかは知ってるよな？」

男は近くにあった椅子に腰掛けると、また話し始めた。

「その時にこの家ではいろいろな駆け引きが行われていた。」

男がそこまで話した所で、また誰かが部屋に入ってきた。

「おい、今何話してた？」


さっきまで話していた男はゆっくりと立ち上がると、今入ってきた男に挑発的な笑みを向け、部屋を出て行った。


部屋に残されたのは、リリアーナと冷たそうな目をしたあの男だった。