「ニコラスさん、今日はどこに行くの?」

ニコラスは森のある方向へと車を走らせていた。

「えっへへ、俺のとっておきの秘密基地だよ!まぁ行けば分かるさ。」

ニコラスは車道を走る他の車を勢いよく追い越しながら、案の定森の中へと入って行った。


今日は気持ちのいい秋晴れで、見上げてみると森の小道の木々により、トンネルが作り出されている。

敷き詰められた木々の葉は肌寒い外の空気に黄色や紅へと色付けられ、森の絨毯となっていた。

「ちょうどいい時期に来れたよ。さぁ、見えて来たね。」

ニコラスの視線の先には小さく素朴な家があった。

ニコラスはその家の前に車を停めると、シートベルトを外しエンジンを切った。

「到着!イザベラ、ちょっと待ってね!」

ニコラスは先に降り、イザベラのいる助手席側のドアを開けた。

イザベラはお礼を言うと、車を降りた。

「ここがその…秘密基地?」

小さな家の前には等間隔に木の板の並ぶ玄関アプローチがあり、その先には二人の膝上ほどの高さの小さな表札が地面に突き刺さっている。

「可愛い!なんだかまるで…」

「小人の家みたいでしょ?」

イザベラが頷くと、ニコラスは彼女の手を引いて表札の前で屈み込んだ。

よく見てみると、そこには“ニコラス&イザベラ”の文字が彫ってあった。

「これって、もしかして…」

「あの夜初めて会った時から、絶対ここにイザベラを連れて来たいと思って…」

「ニコラスさん…」

そう言ったニコラスのはにかみは、いつものナルシストぶりがまるで嘘のように感じられた。

「ありがとう、本当に嬉しいわ!中はどうなってるの?」

ニコラスはまた彼女の手を引くと、若干の隙間が目立つドアを開けた。

中に入ると、意外にも天井の高い平屋建てになっていた。

小さなキッチンと二人分の木製の椅子とテーブル、ベッドが置かれてある。

部屋の高い位置にある四角い窓からは木々の間を縫って外の光が差し込み、素朴な中にも開放感ある明るい雰囲気になっていた。

「なんだか落ち着くわ。まさかニコラスさんがこんな秘密基地を持ってるなんて!」

「魔法の力は借りたけど、何年かかけて全部僕が自力で造ったんだ。一人になりたい時はいつもここに来てぼんやりしてた。実はこの秘密基地の存在は兄さんやデルーロ家の人間ですら知らないんだよ。」

「ってことはもしかして…」

「そう、イザベラが初めてのお客様だよ。でももうここは二人の基地だから!」

ニコラスはそう言ってウインクした。