「…よし、ここならいいんじゃないか?」

二人は城の庭園にある橋の上に腰を下ろした。
たしかにこの辺りなら人は来ないだろう。

「…デルーロ家の方々が何を求めているのかは何となく察しているわ。だけど…どうして私達が当てになる事を知っていたのかしら?そこから話していただきたいわ。」

「…あぁ。」

ランスは言いにくそうに下を向いたが、顔を上げて話し出した。

「これも話す覚悟で来たんだが…実は、デルーロ家とチューリッヒ家は親戚同士なんだ。」

「…それは初めて聞いたわ。父は次男で、長女の母が婿をもらって結婚したわ。つまり…」

「…父親側だ。ルクレツィアの父親の旧姓はロビン・デルーロ。」

「それが母の姓をもらってロビン・チューリッヒになった…1つ知る事が出来たわ、ありがとう。」

ルクレツィアは全くといっていいほど動揺を見せず、続きを促した。

「…だから俺達は知っていたんだ、チューリッヒ家の本来の役割を。あまり知られていない情報だから不審に思っただろうが、そういう事だ。」

「…なるほどね。あ、デルーロ家の説明は十分よ、こちらでリサーチ済みだわ。それで…何か聞きたいことでも?それとも依頼かしら?安くても100万、高くても…上限はないわ。」

作り物のようなルクレツィアの目は笑っていない。


「少々お高い依頼かもしれないのだが…ハンナ・ケインズとジャック・カルローの関係性について調べて来てほしい。きっと二人はただの知り合いではないんじゃないか?」

「…そうね、今分かっている事だけでも知りたい?」

「いくらだ」

「そう簡単には売れないわ。そうね…ざっと500万くらいかしら?」

そう言い放つ真紅の唇は弧を描き、深い紫水晶のような瞳は、僅かな月明かりの下ですらギラついていた。