こうして二人の結婚式についての話し合いが終わると、昼食を挟み、作法の練習へと移ろうとしていた。


二人はアドルフの執事にその部屋まで案内してもらい、ドアが開く。

その音に反応したのか、窓の外を眺めながら待っていた人物は振り返る。

痩せこけて突き出た頬骨にくぼんだ目、髪型はワックスでテカテカとなで付けられている黒髪で、目線はリリアーナとほぼ同じくらいである。

その人物は何を隠そう、今リリアーナとアドルフにとって一番の悪役である、ルイス・エドワードだった。

「アドルフ様、ハンナ様。本日もどうぞよろしくお願いいたします。」

ルイスはおでこのシワを深くしながら眉を上げ、上っ面だけの笑顔を見せる。

「よろしくお願いいたします。」

アドルフが言うとリリアーナも慌てて後に続き、「お願いします」とだけ言う。

「…ハンナ様。大変申し上げにくいのですが、教える側も教わる側も対等の立場であることを示されますよう…お願いいたします。きっと、長らく過ごされてきた人間界での亡命生活でお忘れになったのでしょう。仕方のないことですが…。」

嫌味をたっぷりと含ませた表情、悪意の塊のような言葉。

リリアーナはこの数秒間の出来事で、ルイス・エドワードという人物をすっかり思い出してしまった。

だが、リリアーナは顔を引きつらせながらも「申し訳ございません」とだけ言う。

ルイスは満足げな笑顔で頷くと、椅子に座るよう促す。

二人は座る前に「失礼します」と言い、椅子に腰掛けた。


「それでは、今回は結婚式のお作法についてお教えします。」

こうして少し上機嫌なルイスの講習が始まった。