「じゃあこれも同じだからサードでゴロを捕球され一塁でアウトってことですね。でもその下にスラッシュが二本あるけど」


「ああ、これでイニング終了ってこと。つまりスリーアウトです」


「スリーアウトで三者凡退か……」

美紀はそう言いながら、ずっとスコアブックを眺めていた。

秀樹と直樹の苦しみがその中に凝視されているような感じがして……




 「それともう一つ聞いてもいいですか? さっき秀ニイの取られたボークのことですが?」


「解り難いですからね」
そう言いながら直美はスコアブックに挟んであった紙を取り出した。


「ボークとは塁上にランナーがいる時のピッチャーの反則球ですね、審判が相手を欺く行為と判断した場合にも取られるそうです」


「相手を欺く行為?」


「ピッチャーの意図を感じて取るみたいです」


「そんなー。秀ニイが悪い訳じゃないのに……」


「相手側が上手だってことですよ。よっぽど練習したのでしょうね」


「何か辛いですね。みんなの頑張り目の当たりにしてきた者としては……」

美紀はそれ以上何も言えなくなった。


見上げた空には太陽が輝いていた。

松宮高校の甲子園挑戦は終了した。
美紀は、勝ちチームがこれ以上ピッチャーを苦しめないことを太陽に願った。


「悔しいです。でもきっと詩織の方が何倍も……」


「シオリ?」


「入学した翌日、校門前で足の骨を折った子です。彼女はマネージャーになるために此処に来たのです」


「その人のことなら聞いているわ。影の功労者だって……」


「ありがとうございます。詩織が聞いたらどんなに喜ぶか……」

直美は自校のモニターの前で応援しているであろう詩織に思いを馳せていた。




 「本当はね。彼女は私に声を掛けてきたの。『あの子何か無理してない?』って」


「詩織がですか?」


「『あの子の投げるボールは外に向かって曲がるの。だから、その方向に手首をひねってしまうみたいね。本当は危険なのよ』って。だから貴女に言われてドキンとしたの」


「えっ、そうなのですか?」


「『あのままじゃ真のエースにはなれないな。野球部の男子なら必ずなりたいはずだから……、ね?』って。私思わず頷いていたわ。その後、私の兄だと言ったら彼女驚いていたわ」