早春譜

 午後の練習はまずロードから始まる。

野球の練習グランドのフェンスの先には川が流れていた。

この川の橋から橋まで一周する。

クールダウンとウォーミングアップ後、それぞれの練習メニューをこなす。


練習終了後の道具の手入れは欠かせない。
直美は詩織の指導の元に部員達をサポートを徹底していた。




 プロ野球の世界ではワンシームも登場しているが、秀樹のツーシームは向かうとこ敵なしに思われた。

ボールを少し浅めの握り、親指は人差し指と中指の間の下におく。

人差し指と中指の間は其処にもう一本指が入る位開けて握り、ボールの縫い目に沿って、第一関節がかかるようにするのが基本だった。


握ったボールの一回転の間に二つの縫い目が見えるのをツーシームと言い、少し沈むボールになると言われている。


勿論伸びるボールのフォーシームも健在だった。
それもそのはずで、このフォーシームこそがストレートの基本中の基本だったのだ。

ツーシームがストライプだとしたら、フォーシームはボーダー柄。
同じストレートでも、握り方一つで全く違う球質になる。
秀樹は真のエースを目指して頑張っていた。


秀樹は新コーチの指導の元でスクスク育っていったのだった。




 コーチは秀樹の才能を見抜いて高くかっていた。磨けばいくらでも光る器在であることも。

でも、お調子者の秀樹にそのことは言わなかった。

全て女房役の直樹に任せていた。
双子だから。
と、ツーカーの部分に賭けたのだった。


カーブ、シュート、スライダー、チェンジアップも一応はマスターしていた。
でも秀樹はもうそれを使おうとは思わなかった。
豪速球が生かされるのはやはりストレートだと確信していたからだった。


『正しいフォームで投げてこそ、コントロール出来るんだ』とコーチが常に言っていた。
その通りだと素直に思う。
秀樹はそれだけ成長したと言える。


秀樹は目を閉じた。
直樹の構えるキャッチャーミットを意識するために。


リラックスして振りかぶり、片足をゆっくりと上げる。
秀樹は迷わずに直球を投げた。


「ナイスピッチング!!」
直樹の声が聞こえる。
秀樹はその時、真のエースになりたいと本気で思っていた。