工藤淳一のことは昨日から気になっていた。
でも詩織は同じ苗字だからだと思っていた。


実は詩織の母親は、仕事先の海外で知人男性と廻り合って再婚したのだ。
それで名前が工藤に変ったのだ。


実は母親の相手の男性は元カレだった。
焼けボックイに火が着いた。
それが正解なのかも知れない。


再婚相手には大学生の息子がいて、まだ会ってもいなかったのだ。
だから自然と工藤と言う名前に反応してしまったのだった。



入学式に来ていた父親は最後の役割を果たしてくれたのだった。


両親は離婚をし、詩織の親権を争っていた。
本当は母親が勝ったのだけど、急に海外転勤を命じられて一時父親に預けられていたのだった。


その母親が帰って来る。
詩織はウキウキしていた。




 「一緒に帰ろう」
詩織の姿を見つけて、直美が声を掛けてきた。


「うんいいよ。私の知ってる中野さんだったら、きっと太鼓橋の近くだと思うから」


「実は、彼処から引っ越したの。今はアパートの反対側にある集会所の裏に住んでいるんだ」


「確か彼処は通学区域が違うんだよね? あっ、だから小学校で会わなかったのか?」


「うん、そうよ。ところで詩織、今何処に住んでるの?」


「あの太鼓橋をずっと行った場所にあるマンションよ。春休み中に引っ越したの」


「えっ、……そうなの? あっ、だからあの道を通った訳か?」


「そうよ。ねえ中野さん。足が速い訳じゃなくて、この自転車のせいかも?」


「そうかも知れないな。だって私のは三段ギアのママチャリだものね。でも詩織。その中野さんってやめて、昔みたいに直美って言ってよ」

そんな会話をしながら二人は自転車のロックを外した。




 昨日出会ったばかりの生徒が意気投合した。
その二人は幼馴染みだったが、お互いがすぐ近くに住んでいることを知らなかったのだ。


「実はまだ決めていないけど、野球部のマネージャーに興味沸いてきた」

直美の言葉は詩織を上気させていた。
直美は本当は趣味の手芸をやりたかったのだ。
でも言い出せなかったのだ。


詩織は遠目でカーブミラーを見て、何も走っていないことを確認して一気に校門から脱出した。


その時、急ブレーキの音が聞こえた。


その音に二人は慌ててしまっていた。

何をどうしたらいいのか咄嗟に判断出来ずにいたのだ。


その結果。
お互いの自転車のハンドルが噛み合ってしまったのだった。