早春譜

 放課後。自転車置き場。

美紀はスポーツバックを前籠に乗せた。

珠希の形見となったラケットをとても大切にしていた美紀。

もし自分が国体の選手になれたらそのラケットで戦おう。
それが一番の供養になると考えたからだった。



大事な試合のみだけど、自分は昼間使わせてもらっている。
だけど夜はそれで楽しんで欲しくて仏壇の前にお供えしていたのだった。


「ママ。力を貸してね。もうじき試合があるの」


他力本願はいけないことだと、自分自身が一番分かっている。
でも美紀は、親子でインターハイに出たいと思っていた。


秀樹直樹の甲子園同様、美紀も国体の選手を目指して頑張っていたのだった。




 ソフトテニスは軟式テニスと言っていた頃とはルールが違っていた。

前衛と後衛に分かれる。
それは同じだった。
大きく違うのはサーブだった。
一人だけから二人の共同作業になったのだった。

前衛は守りのみだった。
スマッシュやボレーの腕を磨くだけで良かった。

珠希はその前衛だった。
中学高校で培った力を全面的に否定されたようで最初は慣れなかった。

サーブは後衛に任せっきりだった。

珠希は全くサーブの練習などして来なかったのだ。

だから人一倍悩んだのだった。

でもどうせ遣るなら、誰にも打てない物を。
そう思って、初めたイングリッシュグリップ。


自然にサーブも決められるようになるために珠希は死に物狂いの努力を自分に課せたのだった。




 ソフトテニスのグリップは大きく三つに分けられる。
ウエスタングリップ。
アメリカの西部地方で考案された事から名付けられたグリップて、ソフトテニスでは最もポピュラーな握り方だった。
それ故、このグリップの部員が一番多かった。


イースタングリップ。
アメリカ東部地方で考案された握り方で、硬式テニス用として広まった。
フォアハンドとバックハンドでは別のラケット面を使用する。
流石にこのグリップの部員は居ないと思われた。

でもかって硬式テニスをかじった部員には馴染みのグリップらしく、ラリー中に思わずその握りをしてしまう選手もいた。

イングリッシュグリップ。
イギリスで考案された握り方で、硬式テニスで多く使われている。
ソフトテニスでのグランドストロークとしては殆ど用いられない。
でもツイストサービスやカットサービスでは武器になる握り方だった。
だから珠希はこれを選択したのだった。