沙耶はそれに気付き秘かに正樹の後を追ってみた。


入って行ったのは体育館だった。
沙耶は首を傾げた。
何故此処なのか、見当も付かなかったのだ。


沙耶は見学だと言って、スリッパを借りた。
二階に上がれるはずがない。

でもどうしても確かめたかったのにだ。




 沙耶は階段で聞き耳を立てた。

プロレスラーになる夢を珠希に語る正樹はイキイキしていた。

沙耶の心が傷む。

それはトラウマだった。
沙耶は、幾ら正樹を好きでも夢を叶えてあげられないと気付く。

又保育園時代の体験が脳裏を掠める。

正樹の父親がプロレスの技を教えなければこんな苦しい思いをすることはなかった。


今度はそれを憎んだ。
沙耶は恋しい思いを抱えたままで、珠希と正樹を常に意識して暮らすしかなかったのだった。




 市立松宮保育園。
沙耶は何時かその門の前にいた。
仲睦まじそうな正樹と珠希。
二人の姿を思い出しては頭を振る。

沙耶は何時しか泣いていた。


(そんなにアイツが好きなの? もう遅すぎるよ!)

頭の中では理解している。
それでも邪魔したくて立ち上がる。

沙耶は嫉妬から悪巧みを思い付いていた。


それは珠希と正樹の恋を両親に言い付けることだった。


それで二人が別れることは無いと判っていた。
それでも恋心を押さえられなかったのだ。

その結果、更に正樹が遠退いたとしても遣らざるを得なかたのだ。


それがあの、同級生をお義兄さんと呼べないと言った真相だったのだ。




 沙耶。
ごめんね。
何も知らなかった。

ダーリンが初恋の人だなんて気付かずに……
私は沙耶から奪ってしまった。


一途にダーリンだけを愛した?

聞こえはいいよね。
でも……
沙耶は泣いてたのね。


でも……
だからって、美紀からダーリンを奪わないでね。


もう少しで、きっとダーリンは堕ちるはずだから。


美紀と……
美紀の中に巣作っている私達の魅力でね。

沙耶。
悪く思わないでね。
私達本当にダーリンを、長尾正樹だけを愛しているの。


美紀に安らぎを与えてあげて。
私ったら又聞こえの良いこと言っているわね。
そう……
私が満足したいだけなのよ。
そんな野望に美紀を巻き込んだだけ……


私は今でもダーリンが大好きなの。
これが本音かも知れないね。


それは沙耶だけに聞こえた珠希の叫びだった。