「お義兄さんは、真面目過ぎるほど真面目だと思うけどな。だから美紀ちゃんが好きになったのよ。堂々と告白したら?」
沙耶はウィンクをした。


「それともう一つ気になることがあるんだけど。あのーもしかして、美紀ちゃんの中にお姉さんを感じていない?」

沙耶はきっぱりと言った。

正樹は頷いた。


「やっぱり……。実は私も感じていたの。美紀ちゃんには姉も憑依していると思うのよ」


「だから、一生懸命世話をやいてくれたのか?」

沙耶は頷いた。


「あの事故の時、きっと美紀ちゃんに……。だってお義兄さんに生きていてほしかったからよ。でも……」
そう言って沙耶は少し口ごもった。




 「私は花火大会の日に美紀ちゃんの中に珠希姉さんを感じたの。そして美紀ちゃんと話をして全てを悟ったのよ。お義兄さんを助けるために憑依したのだと」
沙耶はやっと言った。


「俺は最初ヘアースタイルのせいだと思っていた。珠希の誕生日に何時ものように髪を下ろした美紀が、珠希と重なっただけだと思い込もうとしていたんだ。余りにも苦しくて」

正樹は泣いていた。
バレンタインデーの夜。
美紀の襲撃を受けた時、無理やり抑えた身体が疼く。
正樹は未だにあの日の自分と戦っていたのだった。




 「苦しいんだよ、美紀を見るのが。傍にいられると珠希を感じて」

正樹は激しくテーブルを叩いた。
その手を沙耶は止めた。


「自分を傷付けてどうするの? お姉さんが悲しい思いをするでしょう? ねえ、思い出してみて、自分が何故生かされたのかを」


「生かされた!?」

その言葉に沙耶は頷いた。


「お義兄さんは、お姉さんと結城智恵さんによって生かされたたの。お義兄さんに生きていてもらいたかったからよ」




 「そうか、俺はあの時珠希と結城智恵さんによって生かされたのか。俺はさ迷っていた。生死の狭間で漂っていた。傍に珠希がいなくて探し回っていた。その時に見た気がする。誰かが珠希の霊に寄り添っていたのを。追いかけたけど見失って目覚めたんだ」


「あっ、もしかしたらその時かも知れない。美紀ちゃん突然意識不明になって倒れていたわ」


「その時に美紀に憑依したのかな?」