ポツッ


頬に水の落ちる感触がして。

反射で空を見上げた。


ポツッポツッ


少しずつ、確実に。

でもあっという間に雨になった。

ザーッと走る雨の足音は、それにつられて走り出した人間の足音、悲鳴なんてまるで無視して。

そっと音を吸い込んでいく。


(きれい……)


走り出した周囲。
いろんな色のビニールの花が咲いた中で。
空から見下ろしたら私は、変に目立つんだろうな。

多くの人が逃げ出すなか、私だけが右手をあげて、空から落ちてくる雨を歓迎していた。


だんだん強くなっていくそれに、自分の想いを重ねて……。

真っ直ぐに地に降りていったり、時には斜めに動いたり。
激しくなったと思えばまた緩やかに……。

たまりすぎたそれは、地に吸い込んでもらえるわけでもなく、陽に掬い上げられるわけでもなく。

ただまとめて、追いやられて、落とされる。


幼い頃、興味本意で覗いた排水溝は、深さが分からないくらいに真っ黒で。

マンホールのフタを開けてはいけないのは、大人もあの黒が怖いからなんだと思っていた。


「寒い……。」


そう呟いてやっと、自分が震えていることに気づいた。

震えて、濡れてて、寒くて、冷たいのに。
頬をこぼれる雨だけは場違いに温かくて。
思わず笑いがこぼれた。

もう、温かく抱き締めてくれる人はいないのに。
冷えきったまま動こうとしない自分がいる。


雨は楽しそうに歌って踊っているのに。
こんな私にさえも、一緒に踊ろうとついてくるのに。

私はそれに応えもしないで。
ただ、ぼんやりと、待ってるんだ。

まだ、待ってるんだ。

雨の音楽の合間に、何か別の音が聞こえた気がして、思わず振り返ってみた、そこには。

もう、誰もいなくて。

目を伏せた私を、水溜まりの上を跳ねたソレが見つめてる気がした。


〝…ねえ、踊らないの?〟






。゚.:*:.゚。雨のダンス゚.:*:.゚END。゚.:*:.゚。