立ち聞きを故意にしているわけではなかったが、なんとなく出にくい雰囲気で、つい隠れてしまう。
「助けていただいたこの命。その全てを頭と黒鷹衆へと捧げる。…それが、私の生きる意味ですから」
空気を通して伝わってくる、しぐれの強い思い。
きっと、時雨の表情は覚悟のあるものだ。
顔は見えないはずなのに、翔真はそう感じた。
「………自分の命は、大切な人と自分を守るために使え。…私のためになど、無駄なものだ」
羽織をひるがえし、紫月は自分の部屋へと帰っていく。
次月の言葉を受けて、時雨は何か言おうとしていたのだろう。
だが、そんな紫月の様子を見て、何も言わずにフゥッとやさしく笑った。


